熊本県八代平野から八代海に渡って流れる一級河川の球磨川。その熊本県内最大の川にある遥拝頭首工の耐震性を高めるためのプロジェクトに携わった社員から、当時の話を直接聞きました。

今回お話を聞いた人

戸田 英徳

2006年入社/国内事業本部 総合技術第2部

経歴 学生時代は農業土木を専攻。「農業土木」と「設計」をキーワードに就職活動をしていたところ、当社に出会う。本プロジェクトにおいては、耐震性能の照査や解析、耐震上の補強設計を主に担当した。

完成から60年以上経った頭首工を、
大地震にも耐えられるように補強する

Q.プロジェクト発足のきっかけ

熊本県八代市の一級河川球磨川に造成された遥拝頭首工は、完成から60年以上が経ち、経年的な劣化が進んでいました。レベル2とよばれる大きな地震が来たら壊れる部分もあるだろうという状態であったため、農林水産省九州農政局にて八代平野農業水利事業が発足。その事業の一環として、耐震性能照査及び、実施設計を当社で担うことになりました。
事業を進めていくにあたり、2点課題がありました。1点目は、精度の高いデータが得られるような地質調査方法を立案すること。適切な耐震補強規模を計画するためには、基礎の基盤岩への着底状況や、地盤物性値の設定が非常に重要な項目となります。
もう1点は、調査から設計まで1年間で完遂する必要があったこと。出水がない11月からの半年間しか調査ができないため、設計までとなると厳しい工程でした。なるべく効率的に進行するために、設計と調査の担当者間での情報共有を密に行ったり、発注者側とも通常よりも多めに打ち合わせを設け、意思疎通しながら合意形成をはかりました。

精度の高いデータを得るために、
地質の専門家と連携しながら調査方法を選定

Q.進行するにあたって、苦労したこと

先ほど課題の一つとして挙げた、適切な地質調査方法の立案というところが、最も苦労したポイントです。一般的にボーリングによる地盤調査方法は、地表で起振するダウンホール法と、孔内で起振するサスペンション法の2種類に大別できます。通常は、ボーリングの掘進深度が小さく、調査方法も比較的簡単なダウンホール法を用いることが多く、以前のデータもダウンホール法で計測されたものでした。しかし、それをもとにモデリングした際、さらに正確なデータが必要と感じたため、総合技術第1部の地質の専門家に相談。ダウンホール法だと、地表のコンクリートの厚さが影響して、振動が減衰してしまうのではないかという結論に達したため、地表のコンクリートの厚さに影響を受けない、孔内で起振するサスペンション方式で調査に着手することになりました。新たな調査のための追加費用を発注者に交渉し、その必要性について意思疎通を図ることで、追加費用を獲得。しかし全体としては、適切な調査方法によって精度の高いデータを得られたことで、建設費まで含めたトータルコストをぐっと抑えることに成功しました。

基礎の状態を正確に判断できたことで、
コストダウンに大きく貢献できた

Q.プロジェクトの成果

元々、基礎を大幅に補強しなければいけない想定でしたが、高い精度で地盤を評価できたことで、基礎は大きな地震にも耐えられる状態であるということが判明しました。結果として、柱の部分だけ補強することになり、かなりのコストダウンに貢献することができたと思います。
また、このプロジェクトを通して得た私個人の収穫としては、地質の専門家の着眼点を知れたこと。たとえば、同じような砂礫層が連続している場合でも、専門家は実際に触ることで円摩度の違いや、マトリクスの状況など、細かな部分を視覚や触覚で読み取ります。そしてその情報をもとに、設計上地層を区分する必要があるかなど、設計へとフィードバックしていきます。私は普段、試験値をそのまま使って設計や解析をしていましたが、試験値を鵜呑みにせずに、技術者自身の五感も重要であることを学ぶ貴重な機会となりました。

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